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第二十六話

リトは流に軽く視線を投げてからまた言葉を継ぐ。

「でも覚醒していないから、癒やした相手からの衝撃を受けやすい。だから俺は流が治癒によるダメージを受けた時、早く元に戻れるように〝気〟を送って助ける。俺達星導師は本来自尊心が強く、パートナーを持たずに地上に降りる者も多い。

でも生まれて間もなかったり、未覚醒で能力的に完全でなかったり、流のように自らの能力を使うことで体力を消耗する星導師には相棒が付けられる。俺は木神の手で創られた星導師だが、日神に頼まれて流のお守りをしている」

日神はなんでこのひとを選んだんだろう……と思ったけど訊かなかった。でも見抜かれた。「俺は流を特別扱いしないからな」とリトは偉そうに言った。

「美しさ、高い頭脳、運動能力、特殊能力、すべて兼ね備えている。流と並んでも引けを取らない」

まぁ、確かにそうかもしれないけど……自分で言う?

「それに覚醒もしてるんだ。今、ぼくよりリトの方が、能力が高いんだよ」

クスクス笑いながら流が言った。ビシビシ言われてもリトの事が好きみたい。

「覚醒ってなに? どうやってするの?」

私は流に訊いた。でも答えたのはリトだった。

「その話の前に、まだ分かってもらいたいことがある」

私はまた緊張してリトの方を向いた。流は指を絡めて握っていた私の右手を自分の顔に引き寄せると、手の甲にキスした。ドッキーンと心臓が跳ねたけど、リトの話を理解したい。流の事はしばらく右手にまかせて、私はリトの話に集中した。

「今、七人の神々が人間を支配できないのは、実は六つのハートの片割れのせいなんだ。もともと人間は産まれた時、二人で一つの魂を分け合う。だから子供が産まれる時も自然と二人ずつ増えて行っていた。古来、人間の数は偶数だった。必ず、二で割れる。

でも父祖は七人の神の相手を四体しか作らなかった。残りの三つの片割れが地上に落ちたせいで、そのバランスが崩れた。その上、三人の神の子供達の片割れも、相手を作らず地上に落とした。俺のような純粋培養品の魂も、またしかりだ。

聖界で上手く男女ひと組で生まれることが出来て、最初から魂を分け合うことが出来る者もいるが、やはり俺のようにあぶれてしまう者もいる。片側だけ残された魂は地上に落ちて人間に宿ることがほとんどなんだ。

だから地上では相手が見つからず、一人で生きなければならない人間が出てきた。そういう人間は相手のいる人間に嫉妬し、奪ったり殺したりした。人々は神を恨んだ。そして神の力を拒否し始めた。

昔は神の持つ大いなる技で、あっという間に人々に幸せを与えることも出来たのに、当の人間がそれを信用せず、受け入れてくれない。でも神々は人間を守護するために生み出された者だから、なんとか工夫して人間達を助けた。」

その後はしっちゃかめっちゃかだ、とリトは言う。

「父祖の生み出す魂も、綺麗に二人に行き渡ることが少なくなってきた。増える人間に合わせて、沢山作らなければならないから荒っぽくなる。魂を裂くのも二つでなく、三つになったり、それ以上になったりした」

なんだか神様や、それ以上の存在であるはずの父祖は、実はとっても……いいかげんなんじゃないかと思えてきた。変に一生懸命だったり、突然投げ出したり……。

「人間界には〝邪〟があふれ、誘惑も増えて行く。人々の神に対する呪いのせいで、神々はもう人間を支配や守護することが出来ず、管理しながら良くないものを少しずつ排除するだけしか出来ない。今、俺達は少しでもマシにならないか、と躍起になっているが、力が及んでいるとは言い難い状態だ」

最後の方はため息交じりにリトは言った。「大丈夫?」と流が私に訊いた。

全然、大丈夫じゃありませんって顔で見ると、ペットボトルを渡してくれた。またフタを取ってくれたので、有難く飲んだ。

「赤い糸を信じてるか?」

突然リトに言われて、一瞬止まってしまった。

「──信じて、ません」

赤い糸がもしあったにしても、私の様な者には関係のない話だろう。私から伸びた糸は、きっと途中で切れている。私の手を握る流の手の力がグッと強まった。