第二十七話

リトが言葉を続ける。

「魂は、最初は一つだ。だからもともと一つだった魂がお互いを引き合い、愛し合うことできちんと一つに戻れると、それはピュアと呼ばれる愛の塊になる」

リトは手を組み合わせて私を見た。真剣な瞳をしている。

「人間は当初、自分のピュアを見つけやすかった。純然たる数の都合で、だけどね。でもどんどん増えて、なかなか魂の片割れと出会えなくなった。ここが人間のすごいところ──まあ、要するに不純なところなんだが、とりあえず完全な魂に出会えなくても、手近なところで済ましちまえ、と思うようになった。

魂の割れ目には形がある。ひとは自分の魂の割れ目の形と近い人間に、好意を持つようになった。でも本当の相手ではないから、始終争いが絶えない。今では本当の相手に出会える人は少ないが、いるにはいる。そういう運のいいカップルは文句なく幸せになれる。魂は完全なピュアになる。

とりあえず、の相手でも上手に合わせて生活していければクリーンと呼ばれる塊になれる。純粋じゃないが、まぁオーケーといったところか。

そしていつもいがみ合いながらも、ごまかしながら日々を過ごす人や、出会うのを諦めてしまった人の魂は、塊にはなれず、片方のままだ。俺達はそれを、ノーマル、と呼ぶ」

どう考えても私はノーマルだな、と思ったらリトが言った。

「蘭の持つ魂は、流の片割れなんだ」

────!

あまりにも衝撃が大きすぎて、頭がまっしろになった。視線を流に移すことは……怖すぎて、できない。

「俺達聖界の者の魂は、決して他の魂を求めない。父祖が作った、流を含む三人の神の子供の魂は丹念に作られている分、余計その要素が大きい。最初からピュアでしかありえないんだ。俺達には寿命が……普通に過ごしている分には、ない、と言える。だから流はかなり長きに渡って、自分の片割れを探してきた。そして、君に出会った」

私は思い出した。流に尋ねようと思って、結局忘れて訊かなかった疑問……。何故最初に私を見て、驚いたのか──。

私が、流の、ピュアだからなんだ。

そう、頭では理解出来た。流の魂の片割れ。真実の相手。──でも、それはあり得ない。だって私は……。

「……俺達、星導師が地上に来ると──」

リトは私が衝撃を飲み込むのをしばらく待ってから、また話し始めた。表情のない顔で何かの想いを隠しているように感じた。

「自分達の能力を封印する。やり方は自分の力を髪の毛に編み込んで隠す。まあ、封印すると言っても、全く使えなくなるわけじゃない。どちらかというと……髪に編み込んで外に出る力を弱める、と言った方が近いか。そうしないと人間には俺達が見えない」

「──あたしには……今、見えますけど……」

流の変わった髪型の訳が分かったけど、今の流は髪を編んでいない。と言うことは人間である私には見えるはずがないのに……。

「それは流と君が触れ合って、魂の結合が始まっているからだ。ピュアである二人の触れ合いやお互いの信頼が深まると、魂もより強く結合する。君達の魂の結合は思ったより、早い。実際、あともう少しと言うところまで来ている」

私は気分を落ち着かせようと、もうひとくち、ペットボトルからお茶を飲んだ。そして訊いた。

「完全に結合するには、何が必要なんですか?」

もっとたくさん話して、お互いを知ることかなぁ、やっぱり。と思ってまたお茶を飲もうとしたら、リトが言った。

「端的に言うと、セックスだ」

ぶおっと、お茶を吹き出してしまった。あせって急いでハンカチで濡れた所を拭こうと流の手を離した。片手にはボトルを持っていたのでそうするしかなかったのだけど、あまりに気まずくてちょっとホッとしてしまった。

──もうどうしても、どうやっても、流の顔を見ることが……できない!

「あ、あ、あの……それは……えーと、──」

なんと言っていいのか分からなくて、しどろもどろになってしまった。手に持ったボトルのお茶がピチャピチャ波打つ。流がさりげなく手を伸ばして受け取ってくれた。

「あ、ありがと……」

どうにか言えたものの、やっぱり顔を見る勇気がなかった。

「何もそんなに、あせることじゃない」

リトの声は冷静だった。呆れていて……少し怒ってる?

「本来セックスは、最高の愛の表現なんだ。あれほどの強烈な歓喜と結びつきは、そうそう存在するものじゃない。俺達聖界の者は、すべての愛をピュアである相手に注ぐ。最後に深く結びあい、愛し合っていると確かめられた時、ピュアである魂は完全に結合する。そうすると君がさっき疑問に思っていた、能力者の覚醒が始まる」

それでは──流が覚醒する為には……私と……?

まさか! それだけは絶対あり得ない。あの時医者はなんと言った? 一年前のあの日──

「人間は……そのことに関して、恐ろしく不純過ぎるんだ。ただ快楽の為に結びついても、実際なにも生まれない。ああ、子供は産まれてくる。でも望まれないで出来た子供ほど不幸な者はないだろう。快楽だけを求め不特定多数の相手と交わる人間は、勢い、魂がよどんで黒くなる。

これは俺の意見だが、ノーマルの下にダーティというランクも置きたいくらいだ。愛は神聖で完全でなければならない。これは人間界にある神話の神になぞらわれて、愛の神エロスとも呼ばれている木神から、直接秘儀を受け継いだ俺の確信している真実だ」

一体リトは愛の神エロスから、どんな秘儀を受け継いだんだろう……と余計なことを考えて、自分自身の恐怖から逃げた。なんにしても、優秀な生徒だったに違いない……。

「俺達、星導師は髪に能力を封印し、人間界に存在出来る。でも俺の様な聖界の純粋培養品には、人間界はキツ過ぎる。だから俺は人間のルールに従って生活していく力が弱い。普段は解放≠オたまま邪≠フ行方を追ったり、見張ったりする。

流は半分人間だから、封印さえすれば普通に生活できる。人間として邪≠ノ近づけるメリットは邪≠ノ気付かれに難いという所だ。解放していると危険を感じ取った邪≠ェせっかく見つけた宿主から離れて、新しい宿主を探しに逃げてしまう。だから俺は見つからないように、用心しながら見張らなきゃならない。流は邪≠狩るときだけ解放≠キる。

解放≠ノも段階がある。今は聖界での、俺達の通常の状態を現す普通の解放≠セ。次にもっと能力を使いたい時は全解放≠キる。その星導師が持つ最大の能力が出せる。そしてピュアに出会った者だけが、もっと大きい力を覚醒させることが出来る。覚醒した力を出すのが完全解放≠セ」

「あの……リト……さんの、能力はなんですか?」

突然興味が湧いた。流をもしのぐ能力があるということは、すでにピュアを見つけている、と考えられる。