HV ―HandsomVoice―

第二十五話

リトはそのまま語り続ける。

「地上の小さい者はどんどん増えていった。その分知識が増し、争いも増えた。父祖はなんだか面倒になった。そこで、また自分に似たものを作り、その者たちに地上を守護させることにした。

最初に七体作った。七体には特殊な能力を持たせたので、生き物たちの神として君臨させることができた。青い星のすぐ上に聖界を置き、そこから七人に地上の各地を分けて守護させた。神となった七人は、しっかり守護出来るように三大欲求の中の二つ、食欲と睡眠欲を父祖に封じられた。

でも父祖は、神々にも歓びがないと可哀想だと思ったので、愛欲だけは残した。それが裏目に出て、七体は地上の生き物……〝人間〟と呼ばれる者を、始終愛するために連れてくるようになった。その為地上は混乱した。

また父祖は焦って七体にも妻となる相手を作った。でも四体作った所で、父祖は疲れて寝てしまった。疲れた理由は人間たちに渡したよりも、もっともっと美しい魂を生み出して、急いで二つに裂いて七体に与えたからだ。早くしないと七体が愛欲の為にまた地上を混乱させてしまう、と思って。

七体は魂の半分を手に入れ、妻として創られた新たな四体にも片割れが渡った。でも三つの魂の片割れが残り、それは地上に落ちて行ってしまった。日神、金神、土神の魂の片割れだった。

三人の神は地上を守護しながら、自らの片割れを持つ女性を探しによく地上に降りて行った。それぞれが妻を見つけ聖界に連れてくると、その人間から子供が産まれた。

最初にきちんと妻を持てた四人の神はうらやましがった。どんなに妻と交わっても、聖界の者同士では子供を持つことが出来なかったからだ。父祖に向かって自分達も子供がほしいと騒ぎ立てる。父祖はうるさく思ったので、生き物の作り方を教えた。

四人の神は地上の物を使ってこね、新たに生き物を生み出した。でもなかなか難しくて、多くは作れない。時々上手く出来ると、それは地上の人間にはない特殊な能力を持つ者になった。それが俺たち星導師だ。

子供を持てた三人の神も、守護する者を増やす為に生き物の作り方を教わった。なぜなら子供はどうやっても、一人ずつしか産まれなかったから。しかもその子供達は赤ん坊時代がかなり長く、なかなか成長しないから守護の手伝いが出来なかった。

それなのに人間と呼ばれる小さい生き物は、ものすごい勢いで増えて行く。人間の中に神の教えに反発するものも出てきて、守護はかなりしにくくなっていた」

私は流がどうやって産まれたか少し理解出来たような気がした。リトは息をつくと、私を見た。

「俺は神々の手から創られた、聖界での純粋培養品だ。聖界で創られる星導師は、人間のように赤子の姿では産まれない。最低でも十歳以上の見た目をしている。そしてもちろん、父祖は俺にも魂を作ってくれた。神々は星導師となる者を創りだす時、必ず男女一人ずつ用意する。

でも俺の相手として作られた女性は上手く命を持てず、死んでしまった。だから俺が生まれた時、妻となる相手がいなかった。俺に渡されたハートの片割れはしばらく聖界に放置された。いつの間にかなくなっていたと思ったら、人間界に落ちていた」

そうなんだ。ということは、リトの片割れの魂を持つ女性は人間界にいるってこと?

私はその疑問を言葉に出すことはしなかったのに、なぜかリトは柔らかく笑って軽くうなづいた。そして物語を続ける。

「父祖は神々に人間の守護を任せると、魂作りに専念した。流を含む神の子三人の魂は、それはそれは気合を入れて丹念に作ったそうだ。何故なら人間との結合から産まれた三人は、特別だったからだ。そして魂を二つに割って神の子供たちにも渡した。

そこで、父祖は気が付いた。子供達に相手がいないことを。父祖はふと地上を見た。もう人間はかなりの数になっていた。三つくらい大丈夫だろうと、父祖は神の子供達の魂の片割れを地上に落してしまった」

なんて不思議な話なんだろう。どこかで聞いた話のような気もすれば、新鮮な驚きを感じもする。私はあることが気になった。

「……流はなんで、特別なんですか?」

「流は、強靭で美しい。一見、純粋培養された者の方が、綺麗で余計なものがない気がするだろう? でも本当はそうじゃない。雪の結晶や真珠がどうやって出来るか知ってるか?」

「はい。確か雪はほこりにくっついた水分が冷やされて結晶になるんですよね。六角形に伸びて行く。真珠も核になる小さな石が貝の中に入ることで、その石の周り真珠層が出来ていくんじゃなかったかな」

多分ですけど……と付け加えた。

「そうだ。要するに、余計なものが入った方が驚くような結果をもたらす、ということだ。流を含む三人は聖界でも格別美しく、能力も絶大だ。そいつはまだ覚醒してないけど」と顎で流を示す。私は言ってみた。

「流の……能力はもしかして──」

「そいつは、ヒーラーだ」

やっぱり、と私は理解した。ヒーラー、癒やし手だ。傷や病を治す力を持つ。私は流の能力で治してもらったんだ。