第二十三話

やりまくる、を気にしつつ無理やり意識から追い出して私はリトに聞いた。

「ヒシンってなんですか?」

ヒシンという言葉にもなんとなく記憶があった。それも……怖い想いをした記憶……。

「この世界は七人の神が管理している」リトが私の質問に答える。それは初耳だ。星導師は神様じゃないのかな。

「ヒシンは日にちの日に神と書く。七人の神はあんた達が使う曜日の元になっている。日神、月神(げっしん)、火神(かしん)、水神(すいしん)、木神(もくしん)、金神(きんしん)、土神(どしん)だ。日神はこの東洋を管理する神で、流の父親だ」

えっ、と私は今度こそ流の手からのけぞって離れてしまった。案の定、流は途方に暮れた子供みたいな顔をして、せっかく抱いていてくれた左腕を引っ込めた。私のバカッと思った時は、あとの祭りだった。

リトは一瞬、流に意味ありげな視線を送ったけど何も言わず、そのまま話を続けた。

「神、と言ってもあんた達が思っているような存在ではない、と俺は解釈している」

へ? 白くて長い髭があって、杖持ってるんじゃないの?
リトの言葉に目が点になる。

「世界各国には、それぞれの神話がある。キリスト教は一神教だが神は世界に一人だ、と限定すると必ずどこかで無理が出る。神を崇めるにしても各国それぞれだし、同じ国の中の地方ですらやり方が違う。

でも共通している点もある。太古の昔から人間は、この世界には人知を超える、大きな力が存在していると信じ、その力を持つ者を畏怖してきた。神聖な場所を作り、神の居所とし、供物やいけにえを捧げ、自分達の祈りを訊いてもらおうとした。

不思議とその点は、会ったこともない人間達が独自のやり方としてきたはずなのに、各国で共通するものが多い。細かいことは分からないけどね。俺達が興味を持ってもどうしようもない事だから」

リトの言うことは……なんとなく分かる。私達人間はいつも──信仰なんか持っていない私ですら──神なる者や、悪なる者の不思議な力を感じて生きている。

霊柩車を見たら親指を隠せ、夜に口笛を吹くな、箸と箸で食べ物を渡し合うな……

日常の中にも、何がしか自分たち以外の目に見えぬものの存在を無意識に近い形で感じ取る。そして一般的には、神様や仏様と呼ばれる絶対的な存在をどこかで感じることで、悪いことから守ってほしい、と願っている。

「七人の神々はそれぞれが個性を持ってこの世界を管理してきた。服装の好みも人々に影響される。性格もだ。日出ずる国であるこの国を含む東洋を管理してきた日神は、忍耐強くて謙虚だ。ちょこまか動いて、器用に物を作るのも得意だ」

日本人って感じがする。でも東洋だから他の国も入るのか。そこで一つ疑問が湧いた。

「あの……管理っていうのは……支配とはちがうんですか?」

「良い質問だ。神々は世界を支配はしない。というか、出来ないんだ」

どういうこと? 神様って全知全能じゃないの? 私は眉をひそめてリトを見返した。

「さっき俺は神なる存在は一人ではないと言った。厳密に言うとこの世界を管理する神は一人ではない≠ニいうことだ」

リトは翡翠のような瞳で私をまっすぐ見つめて言った。この世界を管理する神は一人ではない=H??

頭がこんがらがってきた。心細くなって流を見る。流はさっきまでうなだれていたのに、こちらを見ていた。さっきの腕の感触が恋しい。私は右手の甲を、隣にある流の腕にそっと押しあてた。流は目を閉じて、ため息をついて笑う。安心したみたい。流は左手で私の手を取ると指を絡めて握ってくれた。

暖かい感触にホッとしたのに、お尻のしたからゾクゾクが這いあがってくる。流に抱きつきたい衝動に駆られて、一人で焦った。最初から感じていた流への引力は、ますます強くなって私を苦しめる。

「ここで始めんなよ」

リトの声にビクッとする。始めるって……何か始まるの?

流がリトをにらんだ。ちょっと赤くなってる? リトは知らん顔して話を続けた。

「七人の神々を創ったのは、父祖と呼ばれるいにしえの者だ」

そこで一旦言葉を切って、顎に手を当てる。どう話そうか迷ってる顔。

「この話を理解するのは、難しいと思う。実は俺達にとっても神話なんだ。なんとかやってみるから、ついて来てくれ」

私は頷いた。流が手にそっと力を入れる。