第十五話  『異母兄弟』


 朔也さんはキッパリと言い切った。あたしは有難くて涙が出そうになった。新は凛とした兄の目をしばらく見ていたけど、不意に視線を外す。

 なんだか、新が泣きそうになっているみたいに見えた。そんな新を見て、あたしは急に申し訳なく思った。確かに彼のいう事は間違っていない。いくら朔也さんが家長とはいえまだ二十三歳なのだ。あたしたちを背負うには荷が重すぎるだろう。

「あ、あたし……なるべく早く仕事探します。自立できるように頑張りますから……」

 あたしは新に向かって言った。新は目を眇めてあたしを見ると、軽くため息をつく。

「仕事はいいけど、自立は焦んなくていんじゃねーの。まぁ優の言う通り、アンタのおにぎりは上手かったしな。次は同じ味ばっかじゃなくて色んなの作ってよ。シャケとかツナマヨとか。ワカメばっかじゃ飽きるからさ」

 それだけ言って、新は食事に戻った。あたしは新から遠まわしに「ここにいていいよ」言ってもらえた気がしてホッと力が抜けた。「二人ともしっかり食べろ」と朔也さんが言う。あたしと優くんは頷いてからパンを食べた。

 涙が滲むのをこらえて食べるパンは、さっきよりしょっぱく感じる。優くんも噛みしめるようにパンを食べていた。優くんとあたしは動作やタイミングが似ている。あたしはますます彼に親近感を覚えた。

「そして最後に四男ルカ。漢字は留める夏と書く。年は五歳だ」

 何事もなかったようにサラッと朔也さんが紹介に戻った。留夏は兄たちの言い争いを神妙な顔で聴いていたけど、自分が紹介されたのが分かるとあたしに向かって笑顔を見せた。

「またぺーたん見ようね」

 あたしが言うと、留夏は嬉しそうに頬を染めて大きくうなずく。なんて可愛いんだろう。食べながら兄弟たちの顔を順に確認していく。まず朔也さん。華やかな美形、というイメージだ。あたしとの共通点は皆無。

 新は朔也さんに似た明るい茶色の髪をしているけど、多分染めている。目は昨日みたいにカラーコンタクトをしていないから少し暗い茶色に見える。これが地なのだろう。

 服はグレイのVネックの半袖カットソーを着ていて、首元にはヘッド部分が銀の十字架の、黒地のレザーネックレスをつけている。新は綺麗≠ニいうよりカッコイイ≠ニいうイメージ。これまたあたしとの共通点はナシ。

 優くんは前髪のせいで目元は良く見えない。顔も二重あごで輪郭は不明だけど、鼻筋は通っている。痩せたら新に似てるかも。あたしとの共通点は暗さ。留夏は朔也さんを小さくしたような感じ。同年代の子の中にいたらパッと目を引くだろうな、と思うほど可愛い。あたしとの共通点は……幼児番組に詳しいってところくらい。

 ほんとにあたしはこの人たちと血がつながっているのかなぁ……。あたしのお父さんという人には会ったことないけど、今どこにいるのだろう。この白金家は朔也さんが世帯主だと言っていた。するとお父さんはどこか違う場所にいるのかもしれない。

「そうだ、肝心なことを言い忘れた。俺達きょうだいはすべて母親が違う」

 突然朔也さんから言われて、あたしは仰天した。ポカンとして朔也さんを見る。

「うちのクソ親父は底なしのロマンチストでね。めぐり合う美女とはロマンスを築かずにいられなかったらしい。最初の結婚は俺の母親だ。母が死んだあとに結婚したのが小花の母親、静香さんだ。これは昨日言ったよな? 新はというと、俺の母が病気で入院している時、親父が浮気して出来た子だ。

 もちろん新は認知されているが、新の母親と親父は入籍していない。静香さんとは三年で別れて、次に結婚したのが優の母になる。優が六歳の時また離婚して、その次に留夏の母親と再々再婚した。留夏のお母さんは二年前に亡くなっている。親父はその後死んだ。交通事故だ」

 あたしは驚きのあまり持っていたスプーンを取り落した。ガシャン、とスープ皿に当たって派手な音を立てる。──死んだ? この兄弟たちの父親は……あたしのお父さんはもう亡くなっていたの……?

「静香さんには父が死んだときに連絡したんだけどね、私にはもう関係のない人だから、と言って葬式には来なかった。小花には話してると思ったけど……その様子じゃ知らなかったみたいだな。驚かせてすまなかった」

 朔也さんが気遣うように言ってくれる。あたしはボンヤリしたまま首を横に振った。お父さん……三歳まで一緒に住んでいたはずの実の父親。結局会えないまま死んでしまったなんて──

「白金家に生まれた時からずっといるのは俺だけなんだ。新は七年前、優は半年前にここに来た。留夏は二歳の時両親が別れて、四歳の時から一緒に住んでいる。新は母親の所から戸籍をこっちに動かしたら名字は白金だけど、優はまだ親権が母親にあるから新草(にいぐさ)が名字になる。留夏は未成年後見人が母親の姉夫婦になっているから、香月という姓だ」

「コノカはどんな字を書くんだ?」

 呆然とした状態で朔也さんの話を聞いていたあたしに、新が話しかけた。あたしはなんとかショックから自分を奮い立たせ、新の質問に答える。

「小さい花で小花です。名字は桜森といいます」

「サクラモリコノカか。乙女チックな名前だな。名が体を表してねぇぞ」

「そうですねぇ……名前負けしました。完敗です。改名がきくなら不幸子≠ノしようと思ってます」

 あたしの言ったことに、朔也さんは声に出さず口元だけで笑った。新はあたしの反応が意外だったのか、何とも言えない奇妙な表情でこちらを見ている。あたしは友好の印にと、笑みを返した。

 新は頬を引きつらせたあと、ブルッと身体を震わせた。新から見たあたしの顔は前髪のせいで上半分が見えないのだろう。井戸系の女に口元だけで笑いかけられたせいで、背中に寒気が走ったのかもしれない。気の毒に。