第四十七話

ホテルの駐車場の車の中で四人そろって待っていると、光がブラブラ歩いてきた。車は昨日光が買い物に行った帰りにホテルまで乗ってきていた。

「待たせてすまん」と言いながら光が助手席に乗り込む。乾かしている暇がなかったのか、光の赤黒い髪はまだ濡れていた。香料のキツいシャンプーの香りが車内に充満する。光は振り返ると、後部座席の未祥に向かって挨拶した。

「初めまして、比丘尼さま。俺は覚夜光だ。刀利村夜衆の……現在では筆頭になるのかな。本業は農家だ。あんたは伝説の人物だったが、俺から見りゃあ普通の可愛い女子高生だ。なので敬語は使わんぞ。ではこれからもよろしく頼む」

ペコリと頭を下げた光を未祥はポカンとした顔で見返したが、すぐにクスクス笑いだした。そして「こちらこそよろしくお願いします。赤鬼さん」と返した。

顔を上げた光は笑った未祥を見て目を細めた。そして可畏を見ると「お前さんは果報者だな」と伝えた。可畏は大きく頷くと、微笑みながら裕生の携帯を覗き込んでいる未祥を見る。完全にベタ惚れって顔だな、と光は思った。この先上手く行くといいが……と危惧しながら可畏に問いかける。

「で、これからどうする? 例の日記とかいうのを探しに行くか?」

光の質問に、高校生達がおしゃべりを止めて可畏の答えを待った。後ろの座席には未祥を真ん中に裕生と志門が座っている。三人で座ると流石のランクルも詰め込まれた感が否めない。

どんなに離れようと思っても、未祥の大腿が志門の脚に触れてしまう。志門はさっきの電話で光が言っていた色っぽい声≠フ話を急に思い出した。あの時電話の向こうでそんな声を出したのは、本当に未祥ちゃんだったのだろうか……、と志門は考える。

そうなると可畏さんは電話をしながら未祥ちゃんにナニかしていたことになる。こんなに愛らしい、純真そうな未祥ちゃんが、友人の明彦に借りたHなビデオの女の人みたいな声を……? 志門は絶望と興奮が全身を駆け巡るのを感じた。未祥の脚が触れる自分の太ももが熱くなったり冷たくなったりする。

「もちろん、俺と未祥はそうするつもりだ。でも光も、志門くんと裕生ちゃんも用事があるんじゃないのか? これ以上付き合わせるのも申し訳ないし、一度地元に戻ろうと思うが……」

「俺は大丈夫だ。村の方には数日戻らないと言ってあるし、ここまで来たら日記のことも気になるしな。夜衆の当主として戟(げき)の今後も見届けたい。邪魔かもしれんが付き合わせてもらうつもりだ。でも志門と裕生は……」

光がチラリと後ろを見ると、裕生が即座に声を上げた。

「あたしも大丈夫です。今日は学校も休みだし用事もないです。役に立つ自信もないけど、一緒に行かせて欲しいと思ってます」

「オレも行きたいです」

志門も裕生の後に続く。ここまで事情を知ってしまったからには、この先の事が気になる。志門も裕生もこのまま帰る気はさらさらなかった。

「──ということだ。不都合はあるか?」

光は可畏を見てから、未祥を見た。二人は一度目を合わせると、同時に首を横に振った。

「それじゃあ、みんなには申し訳ないが今から父の家に向かわせてもらうよ。ここからだと大体……一時間もあれば着くと思う」

可畏が言うと他の四人が一斉に頷いた。エンジンがかかり、ホテルの薄暗い駐車場から外へと車が移動する。志門はラブホテルの敷地内という、どこか特別な空間から外へ吐き出されることに、気恥かしさと奇妙な安堵感を覚えた。オレがもう一度ラブホテルに入るのは、何年後だろうか……。

「まず腹ごしらえをしよう。この時間じゃランチには早いし、モーニングには遅いか。でもどこか開いてるだろう」

光が食事の話をしてくれたので、未祥は自分が昨日の夜からろくに食べてないことを思い出した。羅威と一緒にいた時は極限状態で空腹など感じなかったし、可畏が来てくれたあとはお互いを知ることに夢中になっていて食事まで気が回らなかった。

朝、光が持ってきてくれたマックのポテトを少し口にしたが、冷えたポテトは油の味が強すぎて美味しく思えず、一本しか食べられなかった。未祥は暖かい食事が食べられると思ったら、急速にお腹が空いてきた。

「あ、それなら昨日服を買ってもらった駅前のショッピングビルがいいと思います。駅だからだと思いますが、朝食メニューありますって看板に書いてありましたよ」

裕生が言ってくれたので、可畏は駅に向かって車を走らせた。光が道順を案内する。裕生が少し躊躇った後、可畏に声を掛けた。

「食事が終わったら、ちょっと買い物してもいいですか? 出来れば下着を替えたくて……」

「ああ、そうか。もちろん構わないよ。未祥も制服のままだし、この際服も替えよう。気に入ったものがあればみんなも買ってくれ。金は心配いらない」

裕生が申し出てくれて、志門はホッとした。服こそ制服から新しいものに替えたが、下着まで気が回らなかったので、風呂から出ても昨日のものをそのまま着ている。オレの下着はこの出来事の間に、冷や汗だの脂汗だの、その他雑多な色んな汗を存分に吸っている。替えられるのならすぐにでも替えたい気分だった。

駅前のビルはさほど混んではいなかった。五人はご飯に味噌汁という、オーソドックスな朝食を取った。未祥は滅多に外で食事をしないので、お店で食べる料理を珍しそうに味わった。自分で作るものより全体的に味が濃い気がした。

食事の後は男女に別れて服選びに出かけた。未祥は洋服を選ぶことに関しても、直接お店で買うのは殆ど初めてと言っていいほど経験がない。裕生と一緒に、スカートの形や色を選ぶのが楽しかった。試着ができるのでサイズで失敗することがない。

通販で頼むと、色や形が期待通りでなかったり、着てみたらきつかったり緩かったりするものもあるので、試しに着られることは節約になるなぁ、と思ったりした。