第四十四話

少女が自分に言った言葉が、頭の中で反響したまま未祥は目を覚ました。その音は耳の中に残っているのに、何故か彼女が言った言葉を思い出すことが出来なかった。逃げていく音を追おうとして耳を澄ます。

でも目覚めたことで急速に全身の感覚が戻ってしまった。そのせいで可畏の大きな身体に抱きすくめられているのを自覚した。少女の言葉の代わりに可畏の寝息が耳に届き、何も身につけていない逞しい肉体を全身の神経が感じ取る。

未祥は自分の中心からまた、蜜が溢れるのが分かった。そこは眠る前に幾度も可畏の指と舌で絶頂まで導かれた場所だ。まだ子供だったこの躰が、可畏によって女としての歓びを教えられた。

でも……、と未祥は思う。

可畏はあたしの中に入らずに、本当に快感を得られたのだろうか。何人もの女性と交わってきた可畏は女の味を熟知している。可畏とこんな風になってしまって、あたしはもう、可畏に他の女性に触れて欲しくない。血を飲むために女の首筋に口をつけるのすらイヤだ。

それでも女の肉襞に分け入ることを知っている男が、完全な繋がりを持たないまま何十年も過ごすことなど出来るだろうか。しかもあたしは、十六のまま年を取らない。こんな奇妙な娘と、どこまで可畏は一緒にいられるだろう。

世間の人に不審がられる前に数年に一度は引っ越して……? そんなことを何時までも繰り返す訳にいかない。

可畏はあたしが邪魔になる。いつかきっと、嫌われてしまう。可畏にとって最上なのは、一緒に年を取れて真実抱き合える相手かもしれない──

大きな手が、頬に触れた。その手が未祥の涙を拭う。未祥はいつの間にか泣いていたらしい。

「……どうした?」

優しい可畏の声。未祥が泣くといつも聞く、少し困った宥める声。

未祥は顔を伏せると、可畏の鎖骨から肩につながる小さな窪みに額を擦り付けた。子猫のような仕草がくすぐったくて愛おしく、可畏は少し笑った。柔らかな未祥の乳房に片手を当てると円を描くように揉みしだく。可畏の胸が受ける未祥の息が、急速に乱れていく。

未祥の弾力ある豊かな胸を存分に味わったその手が、今度は泉の探索に出る。なだらかなウエストのラインを冒険した後、薄い茂みの奥にオアシスを見つけた。そこはもう、こぼれそうなほどの潤いを持っていた。五本の冒険家の一番長身の者が洞窟に入る。数時間前幾度も通ったその穴は、激しい貪欲さを持って来る者を受け入れた。

未祥は声を殺して可畏の肩を掴んだ。自分から可畏の手に擦り付けてしまうのを止めることが出来ない。我慢できず声を漏らし始めた未祥の口を可畏の唇が塞ぐ。未祥の手が、可畏の中心に伸びる。

またひと時、恋人たちの甘い吐息が部屋に満ちた。





可畏はベッドの上で未祥を脚の間に座らせると、豊かな髪をブラシで優しく梳いた。

濃密な時間を終え、風呂に入ろうと起き上がったら、ピンクの枕に未祥の髪がごっそり抜けていた。三つ編みは激しくもみ合う内にほどけてしまっていたが、こんなに沢山の髪が抜けるとは思っていなくて、可畏は息を飲んだ。

抜けた理由が羅威だったと未祥から聞いて納得したが、その手荒なやり方に新たな憤りを覚えた。未祥を風呂場で洗った時も、躰の所々に青あざが浮いていた。まだ十六にしかならない女の子をこんな風に痛めつける羅威の神経が分からない。

ホテルの広いバスタブの中で、痛々しい未祥の躰を可畏はそっと撫で続けた。湯の中で可畏の上に横たわる未祥のなよやかな女体は、薄桃色に染まり可畏の欲望に火をつける。可畏の反応を敏感に感じ取った未祥は、熱く脈打つその場所を手で包んだ。

「あの……ね」

言いにくそうに未祥が声を出した。可畏は未祥にキスをすると、先を促すように目を見つめた。

「可畏はその……これだけじゃ中途半端……でしょ?」

未祥は恥ずかしそうに頬を染めながら手にそっと力を入れた。可畏は未祥の言いたいことが分かったので、もう一度キスをしてから「そんなことないよ」と答えた。未祥は目をそらすと申し訳なさそうに目を伏せた。そのまましばらく黙っていたが、憂慮を振り払うように顔を上げる。

「羅威って人に言われたの。男の人を……歓ばせる方法はいくつもあるって。だからあたしに教えて欲しいの。可畏がして欲しいやり方があったら、どうしたらいいか言って。あたし上手に出来ないかもしれないけど、ちゃんと覚えるから」

ひたむきな視線を向けられて、可畏は呆然と未祥を見返した。次第に可畏の頬の赤味が強くなり始める。未祥に色々な方法で奉仕してもらう所をリアルに想像してしまって、思ってもみなかった高ぶりに息が乱れた。

でも未祥の瞳は真剣だった。未祥は真実、可畏に歓喜を味わわせたいと思っているのだ。単純に楽しむ為の性技としてではなく、心から愛する人に喜んでもらいたいと思っている。未祥の目からはその純粋な気持ちがひしひしと伝わってきた。可畏は勝手な想像で興奮を覚えた自分を恥じた。

可畏は下部でそっと蠢く未祥の手をそこからどけると、自分の胸に引き寄せ、ギュッと握り締めた。

「俺は未祥とこうして寄り添えるだけで奇跡だと思ってるんだ。未祥がずっと好きだった。本当に未祥を愛していると分かってて、でも比丘尼とは結ばれることが出来ないと思い込んでいた。だから今まで他の女をはけ口にしてたんだ。だけど……」

可畏は肩に寄りかかる未祥の頭を手で引き寄せて、頭頂部に頬を乗せた。チャプン、と風呂の湯が音を立てる。

「未祥と心が通じ合えた。未祥も俺を、愛してくれていると分かった。それが俺にとって、何よりも大切な事なんだ。その上こうして、未祥を腕に抱くことが出来る。信じられないかもしれないけど、好きでもない女の中でイッた時より、今の方がずっと充実してるんだ。

彼女たちには申し訳ないけど、俺には未祥以外の女は只の道具だった。でもこれからはもう、他の女はいらない。繋がれなくても、こうしてるだけで満たされてる。これ以上の喜びなんてもらったら、バチが当たりそうだ」

言い終えると、可畏は未祥の頭から顎を離した。そして未祥の目を見て続ける。

「今まで色んな女を部屋に連れ込んで、未祥につらい思いをさせてごめん。これからは、未祥にしか触れない。離さないよ。美しい比丘尼さまがジイさんになった俺を嫌になるまで、しつこくそばにいるからな」