第三十六話

下着に手を掛けられたとき、不意に可畏の顔が浮かんだ。朝「約束するよ」と言った可畏の、悲しみを秘めたやわらかい微笑みが。

「……なんで?」

未祥のショーツを下にずらした羅威の手が止まった。未祥の静かな問いかけに、怪訝そうに未祥を見返す。

「なんであなたは、あたしの夫≠ノなったの?」

羅威は手を止めたまま、ふうん、と考えるように上を向いた。それからまた未祥を見る。その顔はにこやかな笑顔を浮かべていた。

「君を愛してるから」

未祥は目を開いて顔を上げた。羅威は未祥の顎を手で押さえると、強引に唇を合わせてくる。口の中を這いまわろうとする舌に抵抗して、歯をグッと食いしばった。なんとか横を向いてくちづけから逃れる。羅威はククッ、と笑い声をあげた。

「そんなワケないってことは、いくらあんたでも分かるよな。夫になった理由ね……。そうだな、偶然の産物とでもいおうかな」

「偶然?」

「そう。俺は多聞の猿親父に協力して、あんたと可畏の行方を捜したんだ。俺は可畏と双子だろ? そのせいか、なんとなく居そうな場所が分かるんだ。見つけたのは二週間くらい前だったけど、多聞には知らせずにずっとあんた達の様子を見てた」

羅威は気だるそうに未祥の横に寝そべった。そのまま視線を未祥の胸元に泳がせると、乳輪に沿って指先で円を描き始める。

「幸せそうだったな。あんたも可畏も……。一度二人で歩いてるのを見かけたけど、愛し合っているのは一目で分かった。可畏は俺が近くにいても全然気付かなかった。俺には可畏の居場所が分かるのに。可畏の目は、あんたのことしか見てなかった……」

羅威は言葉を途切らせると、指で未祥の乳首を捩じりあげた。苦痛で未祥が顔を歪めても、空中を見たまま関心をしめさない。

「俺が殺した多聞のクソ爺は、先代の比丘尼祥那を幼児の頃からさんざっぱらヤり尽くしたくせに、まだあんたをモノにしたいと思ってたんだぜ。もう五十も過ぎてんのに、あっちの方はお盛んらしいな。きっとああいう小男の方が健康で長生きするんだ。短足、寸胴は頑丈の代名詞だからな。羨ましいや」

羅威は身体を起こすと、未祥の上に覆いかぶさった。ニヒルな笑いを口元に浮かべたまま、胸を揉みはじめる。

「ま、中には可畏くんみたいに超美形な上ガッチリ健康な、恵まれた人物もいるけどな。俺は残念ながら元気じゃないんだ。薄幸の美青年ってやつ?」

言いながら手を下に滑らせていく。未祥のスカートをめくりあげると、さっき途中まで下ろしたショーツをまた下にずらしていった。

「俺は可畏が嫌いだ。憎んでると言ってもいい。ついでに俺から家族を取り上げた比丘尼のことも憎んでいる。五歳の頃から多聞の性奴隷になっていた祥那を助けたくて、親父はおふくろと俺を置いて村から逃げたんだ。

離婚して惨めな思いをしたから、おふくろは気がおかしくなった。中学の頃、風呂にも入らずブツブツ言いながら村を歩き回るおふくろを、俺は何度家に連れ戻したか分からない。村の人間は俺たちを避けた。学校でもつまはじきにされてたんだ。だからあの時──」

羅威は力を入れて抵抗しようとする未祥の脚から、引きちぎるようにショーツをはぎ取った。未祥は目をつむり、必死で両膝を合わせる。羅威は手を未祥の膝に掛けると、簡単に未祥の両脚を左右に開いた。そしてそこに腰を滑り込ませる。

「あんたのお友達の男の子が多聞の親父から戟を吐かせることが出来た時、俺はみんなに復讐することを決めた。戟の所有者としてあんたの夫になれば、村は俺のものになる。今度は俺が多聞≠セ。鬼は……可畏は俺の命令に逆らえない」

羅威は未祥の乳房を両手でかき寄せると、その豊かな谷間に顔をうずめた。そこから舌を這わせて、一方の頂きを口に含む。片手でもう一方の胸を揉み、もう一つの手は太ももを撫で回した。その手がゆっくり、未祥の中心に迫っていく。未祥は目を閉じ、強く歯を噛み締めた。無意識に手を動かして、紐がピンと張り詰める。

「最高だな、あんたは。手に肌が勝手に吸い付いてくる。俺は初物は苦手だけど、あんたは別だ。最初は痛いだろうけどそのうち良くなる。もっとちょうだいって喚かせてやるよ」

大きく開かされた未祥の脚の真ん中に羅威の指が触れた。ギュッと閉じられた未祥の目から、また涙がこぼれた。

いや、いや、いや! 
言葉にすることなく未祥は叫んだ。

意識しないまま身体が細かく震えだす。羅威の指は未祥の中心で蠢いていたが、やがて手を離した。未祥が力を入れて硬直する脚の間で羅威は身を起こした。羅威の重みが離れた事を未祥は不思議に思ったが、また陰部を探る指の感触に、歯を食いしばった。

「濡れてない」

ぼそり、と羅威つぶやいた。その後チッと舌打ちをする。

「普通女の身体は性感帯を刺激されると、感じてなくても濡れるはずなんだけどな。傷つけられるのを防ぐ為だけどね。あんたはあれかな。穴なし小町ってやつ? 好きな男以外絶対に受け入れないんだ。驚きだね」

言いながら羅威は未祥の脚の間から横に移動した。未祥は急いで両脚を閉じる。スカートも下げたかったけど、両手が動かせないのでどうすることも出来なかった。