第二十九話

未祥は急いで後ろに下がり、手足を丸めて縮こまった。でもすぐにベッドヘッドに背中が当たってしまった。羅威の手は、未祥の足首を握る。

「なにビクビクしてんだよ。今までだって多聞の性奴隷をしてきたんだろうが。幼児の頃から変態親父の相手をしてきたんだ。生まれ変わったかどうかしらないが、あんたは使い回しなんだよ。富を与える以外にも役に立ってもらわなくちゃ」

「い、意味が分からな……」

「──そうか。俺の事だけじゃなく、あんた自身のことも可畏は教えてなかったらしいな。知らないのか? 刀利村の八百比丘尼の話を」

「やお……比丘尼?」

未祥は今朝、可畏が比丘尼の話をしたことを思い出した。刀利の比丘尼。十六になると宝珠の力をコントロール出来る──

「あんたは大昔刀利村に乳児の姿で突然現れた、神の分身だと言われている。最初は比丘尼≠ニは呼ばれていなかった。お祥(さち)と名付けられ、村に富をもたらす天女の化身だったそうだ。

八百比丘尼を略して比丘尼と呼ばれるようになったのは、あんたが十六になるとそのまま年を取らないからさ。若く美しいまま、宝珠の力で宝石や金を村に与える。そして戟の所有者を夫とし、その男にだけ若い体のすべてを捧げ続ける」

「十六のまま……?」

「ふうん、マジで知らなかったみたいだな。明日十六になるっていうのに。可畏の奴、教えてやればいいものを」

「可畏は、今夜話すって……」

「今夜ね。まぁ十六のまま年を取らないなんて事実は、ある意味ショックを受けるからな。可畏の事だからギリギリまで黙っていようと思ったんだろう。あいつとは五歳までしか一緒にいなかったけど、相変わらず押しが弱いな」

羅威は未祥の足首を握った手にグッと力を入れた。締め付ける痛みを感じて、未祥は足を自分の方に引いた。でも握られた手は緩まなかった。羅威は口元に笑みを浮かべている。微笑んでいるはずなのに、その眼は冷気を放つように表情がない。未祥は底知れない恐怖を覚えた。

「震えてるな。可畏とそっくりな顔がそんなに怖い? どうせ今までだって、可畏に色々サービスしてきたんだろ? 最後までやらなくても楽しむ方法はたくさんあるからな。ほんとに……見れば見るほどそそられるよ、あんたには。初代の鬼じゃないが喰い殺したくなるくらいだ」

羅威は足首から手を離すと、未祥の脚に指を滑らせ始めた。未祥は出来る限り縮こまったが、無駄な抵抗だった。

「これからはお遊びじゃなく、ホンモノを味わわせてやるよ。指だけじゃ物足りないもんな。それとも色んなお道具を使ったりしたのかな? あんたはこれから俺としかH出来ないけど、愛しの可畏くんと同じ顔だし、背格好も同じだから文句ないだろ?

今回あんたを騙してやろうと思って髪型まで変えたんだぜ。せっかく肩まで伸ばしたのに可畏に合わせて切ったんだ。俺的には気に食わないけど、可畏とは瓜二つだろう?」

今や羅威の顔は未祥のすぐ近くまで迫っていた。羅威の手は少しでも後ろに下がろうとする未祥の脚を軽々捕まえると、制服のスカートをまくり上げる。近づく羅威の唇から逃れようと下を向いた未祥の後頭部に羅威の手が回り、三つ編みの片方を握り締めると下に引いた。

髪の毛が確実に十数本は抜けたと分かるほど、強い力だった。痛みに抵抗できず、未祥は顔を上げる。涙の滲む目に映ったのは、可畏とそっくりな顔の冷たい微笑だった。

「さぁ、たっぷりご奉仕してもらおうか。大好きな可畏くんにやったように、俺にもやるんだ。まずはその可愛いお口でいかせてもらいたいね」

羅威は未祥の髪を掴んだまま、もう片方の手を自分のズボンのベルトに持っていった。手馴れた様子で、片手でベルトを引っ張りながらバックルから外すと、ジーンズのボタンに指を伸ばす。

未祥は首を振った。目から溢れ出た涙は、次から次へと流れて頬を濡らす。羅威が今から自分にやらせようとしていることは何となく分かるけど、そんなことをした事もないし、第一男性のモノなど見たこともない。

未祥はおこりのように震え始めた。カチカチと歯がぶつかり合う音が頭の中に響く。止めようと思うのに、どうしても顎が揺れてしまう。顔からは血の気が引いて軽い吐き気が襲ってきた。

羅威は動きを止めると、そんな未祥の様子をしばし黙って見つめた。細められた目は、変わらず冷たい光を発している。

「まさかと思うけど、あんたはホントに処女≠セっていうんじゃないだろうな。可畏はあんたに何もしなかったのか?」

「可畏……しな……。そ、なこと……」

溢れる涙のせいで嗚咽が湧き上がり、言葉が途切れる。未祥の目に映る羅威の顔がぼやけて、冷たい表情がかすれて和らいで見えた。そのせいで羅威の顔が可畏に見える。

なんであたしはこんな場所にいるんだろう、何故一緒にいるのが可畏ではないの?
可畏と同じベッドで寝て、可畏に抱かれたいと思っていたのに……。目の前にいる男の見た目の全ては可畏そのものなのに、今は触れられることが恐ろしい。

未祥の心は急速に下へ、下へと落ちて行った。そのまま地中奥深く沈んで、意識そのものが自分から抜けていきそうになる。でも次の瞬間──

バシッという音と共に、強烈な痛みが左頬に走った。