第二十七話 *

鬼でありながら、刀利の鬼のことをよく知らなかった自分を情けなく思いながら、可畏は光に聞いてみた。

「それじゃあ……代々、刀利の親鬼たちはどうやって子供に能力を渡して来たんだ?」

「単純だよ。親鬼が刃物で自分の腕を傷つけるんだ。そしてそれを碗の中に受けて、長兄に当たる子供が飲む。今は注射器があるだけマシだって親父は言ってたよ」

「そうか……」

ふと可畏はある思いが頭をよぎったが、今はその事を考えないようにした。後ろの二人が緊張しているのが分かる。可畏はルームミラーで二人の顔を素早く確認した。二人共こわばった表情をしている。

「こんな話、いい気分しないだろう。すまないな。怖いなら帰っていいよ。家まで送るから」

申し訳なさを込めた声で可畏が二人に言った。

「そこの八咫烏くんもさすがに鬼の話は怖いか? ビビってチョロ出ししたんじゃないだろうな」

後ろを振り返り、にぃと笑って輝く歯を見せ、光が言う。

「こっ、怖くなんかないっスよ」と慌てて志門が返した。裕生の目の前で、おもらしの話をするなんて光も人が悪すぎる。

「無理しないで志門。今はコンビニでも下着売ってるし」

同情を込めた声で裕生が言うと、光が「ガハハハハ」と大声で笑った。志門は真っ赤になって裕生を睨む。でもお陰でその場の空気が和んだ。

「俺たちは確かに、力が欲しい時に人間から血をもらうこともあるけど、絶対殺したりしないから安心してくれ。それに外国の吸血鬼伝説みたいに、血を吸われた人間がゾンビ形式で鬼になったりしない。吸われた人間はちょっと貧血を起こす程度だよ」

慰めるように可畏は説明したが、本当は血を吸いすぎると人間を殺す可能性もあるとは言えなかった。これ以上二人を怖がらせても得るものは何もない。

「話が脱線しちまったな。で? 日本昔ばなし刀利村鬼伝説≠ヘどこまで行ったんだっけ」
「お雪さんが双子の鬼を産んだとこまでです」

裕生がワクワクした様子で光の質問に答えた。志門は悔しさと感心が入り混じった思いで裕生を見た。この状況を楽しめるのだから、やっぱりコイツは只者じゃない。

「双子の鬼、羅刹と夜叉はすくすくと元気に育った。二人共それは可愛い子供で、村人たちからとても愛されていた。灰色に青が混ざった髪をした兄の羅刹は青鬼、そして赤味が強い髪の夜叉は赤鬼と呼ばれて慕われた。そこから鬼は青の羅衆、赤の夜衆の二派に別れたといわれている。俺と可畏の髪を見てみろ。一発でどっちがどっちかわかるだろ?」

志門と裕生は二人の髪をしみじみと見て、うんうん、と頷いた。可畏が羅衆、光が夜衆だということは一目瞭然だった。

「──さて、こっからはマジで替えのパンツが必要かもしれんぞ。二人とも覚悟はいいか?」

光が本気なのか茶化しているのか判別出来ない口調で二人に言い渡した。志門も裕生も、無言で頷き、話の続きを待つ。

「羅刹と夜叉が十歳になったある日、村で一人の子供が死んだ。その子は鉱石を採掘する為に切り崩してある崖に登って落ちたんだ。父親がそこで働いていたので、行ってみたくなったんだろう。死んだ子の年は数えで七つだったといわれている。発見されたその子の遺体は、頭がつぶれて酷い状態だったらしい。問題はここからだ。その遺体を村の子供たちが好奇心で見に行ってしまった。もちろんその中に、羅刹と夜叉も入っていた。大人が慌てふためいている間に、子供たちは崖下にたどり着いた。その場所は血にまみれ、濃厚な血の匂いが充満していたそうだ。その為に──双子の鬼の本能が目覚めた」

光はそこで一度言葉を止めた。ふう、と息を吐くとおもむろにまた話し始める。

「子供達が遺体のそばまで来ているという事は、すぐに大人にバレてしまった。子供たちは追い払われ、羅刹と夜叉も一旦は家に戻った。小さな遺体は大人たちの手によって、村の長の家に運ばれた。埋葬する穴が掘り終わるまで、長の家に安置される事になった。その夜、長である与平と村の若頭である佐吉が遺体の番をした。でも二人はついまどろんでしまった。気付いたのは、咀嚼の音を聞いたからだ。くちゃくちゃ、ぺちゃぺちゃ、という音が安置部屋に響き渡った。与平と佐吉が大急ぎで明かりを灯し確認すると、羅刹と夜叉が死んだ子供を喰っていた」

志門と裕生は息を飲む。志門は少し裕生の方に体をずらした。怖かったわけではなく、前方にいる二人の鬼から守るために。

「まぁ、そう警戒するな。俺たちは血を飲むが人肉は喰わない。いい女なら喰っちまいたいと思ったことはあるが、そいつはベッドの上だけだ。そっちの彼女はイイ感じだが、俺はもっと成熟した女が好みなんでね。安心してくれ」

光は振り返ると、裕生に笑いかける。光は可畏よりも全体的に大きく見え、プロレスラーのような逞しさがあるが、太い笑いは魅力的だった。今度志門は裕生に無意識ににじり寄る。こういう熊みたいなタイプが好きという女も多い。裕生がこの笑顔に魅せられて、違う意味で喰われて≠オまうのもいただけない。

志門の心配をよそに裕生は光に微笑み返した。志門の口元がひきつる。光はチラリと志門を見たが、何も言わずに前に向き直ると話の続きを語り始めた。