第四話

十六歳を迎えた夜、可畏のベッドで眠りたい。

未祥はそんなお願いを可畏にする勇気はなかった。 最近そんなことばかり考えていて、自分が飛んでもなくいやらしい人間になった様な気がする。

可畏にとってあたしは擁護しなければならない子供のままなのだ、と未祥は思う。 実際、その願いを可畏にお願いしたところで、何もないまま本当に朝まで一緒にベッドで寝る℃魔ノなりそうだ。

「あたし……可畏の大学に行ってみたいな」

未祥はとりあえず、一番目ではない希望を可畏に伝えてみた。 未祥は可畏の大学にいったことがなかった。なので大学での可畏がどんな様子なのか知らない。 一度として同じ女と寝たことのない可畏は、もしかしたらプレイボーイとして名が通っているかも……。

未祥の言葉に、可畏は厳しい顔をした。 高校まで二分しか掛からないアパートに住んでいても、登下校の心配をする可畏だ。 たくさんの人が出入りする大学に未祥を連れて行きたくないのだろう。

ただ大学を訪れたいという願いにも、誕生日プレゼントという特別なアイテムを使わなければならないなんて理不尽だとも思うが、身寄りのない未祥の面倒を懸命に見てくれている可畏に、我が儘を言えるのはこんな機会くらいしかない。

「それはやめておいた方がいい」

案の定、可畏は未祥の願いにダメ出しした。
もぉ、どうしてなの? という思いを全く隠さない表情で未祥は可畏を見返す。

「そんな顔するな。俺は未祥を危険に晒したくないんだ」

「可畏が結界を張ってくれてるから危険はないんでしょ? 高校だって普通に行ってるのに」

「高校は出入りできる人間がほぼ決まっている。一度確認しておけばそうそう変化はない。でも大学は違う。どんなヤツが紛れこんで来るか分からないだろ?」

「可畏のそばを離れないようにするもん。いつも言いつけを守ってあちこち遊びに行ったりしないでしょ? 誕生日のお願いすら聞いてもらえないの?」

未祥の悲痛とも思える問いかけに、可畏は小さく唸った。 どのみち未祥を村へ返すなら、今更何を恐れる事がある?  今のところ夜衆の気配は感じない。

でも恐ろしいのは多聞だ。鬼は決して多聞に逆らえない。 現在の多聞の当主がどんな奴だか知らないが、今までの歴史を見てもろくな人間じゃなかった事は確かだ。 せめて俺に、誰か仲間がいてくれれば……。

眉根を寄せたままの可畏の表情を見て、未祥はこの願いは許可されないな、と諦めた。 それでは、と違う提案をしてみる。

「大学がバツなら……デートしちゃダメ?」

この言葉に、可畏は弾かれたように顔を上げた。さっきよりもっと険しい顔で未祥を見る。

「クラスメイトの烏川志門(からすがわしもん)くんに前から映画に行かないかって誘われてたの。ベルモに映画館があるでしょ? あそこで明日新作のロードショーが始まるんだ。恋愛ものだって。チケットは前売りで買ってあるから是非一緒にって言われてるの」

一気に話した後、視線向けると、可畏は目を見張って未祥を見返していた。真一文字に唇を結んで、自分が受けた衝撃を理性で押しこもうとしているように見える。
未祥は少し驚いた。実は自分がこんなことを言ったら、可畏に笑われるだろうと思っていたからだ。

「……なんだ、そいつは。俺は聞いたことがないぞ」

低く問い返す声は、明らかな怒気を含んでいる。未祥は焦って手に汗をかいた。可畏の怒りの理由が読めない。未祥みたいなお子様には、デートなど早すぎると笑って一蹴されると思っていたのがこの反応。

男性のこういう態度はどう読めばいいだろう、と未祥は考え、答えを二つ見つけた。
一つ目はシスコンのお兄さんが、妹の初めての彼氏にイラつく状態。
二つ目は恋人は娘≠ニ公言している世のお父さんの反応だ。

「前から誘われてただと? まさか付き合って欲しいと言われてたのか?」
「う……ん。そうだよ。返事は待ってもらってるけど」

可畏は一瞬未祥を凝視すると、急に視線をそらした。同じ様に眉根を寄せているのに、何故かさっきとは違って、苦しげで……寂しそうでもあった。

可畏は未祥に、斜めからの横顔を見せたまま目を閉じ、「そいつが──好きか?」と絞り出すような声で聞いた。

「うん」と未祥が答えると、可畏は一度体を引きつらせるように揺らした。 今度はカッと目を見開いて、台所の床に驚くべき何かを発見してしまった様な表情をしている。 未祥は続きの言葉を可畏に伝えた。

「友達としてはすごく好き。女の子のこと変にからかったりしないし、媚売ったりもしない。あたしのこと好きだって言ってくれて、まだ返事出来ないって伝えても、今までと同じように接してくれるんだ。真っすぐなの、いつも。 ちょっと可畏に似てる。だから好き」

未祥が話す間に、可畏は未祥に視線を戻す。
最後の言葉が終ると、ポカンとした顔で未祥を見た。